富山大学未病研究センター

ご挨拶

ご挨拶

富山大学未病研究センター センター長

学長 齋藤 滋


未病研究センターに期待すること

未病という概念は古くは中国最古(紀元前200年頃)の医学書「黄帝内経」に遡り、未病を治す医療が最良とされていました。この頃より、健康状態から未病の時期を経て、疾病になると理解されていたのは驚きであり、現在の予防医学にも繋がるものです。しかし、未病はあくまでも概念的なものであり、科学的に証明されておらず、この点を明らかにすることが課題でした。富山大学の未病研究グループ(約50名)は東京大学の合原一幸教授と共同で、動的ネットワークバイオマーカー(DNB)理論に基づき、メタボリックシンドローム発症マウスを用いて、発症2週間前に遺伝子発現が大きくゆらぐ147遺伝子群を見いだしました(文献1)。これらの遺伝子は細胞分化などに加えて精子形成、精子分化、配偶子形成に関与し、メタボリックシンドロームとは一見何の相関もない遺伝子群が多く含まれていました。また、漢方薬である防風通聖散をマウスに投与すると、これら147遺伝子中134遺伝子のゆらぎが消失し、体重増加や血糖値も低下しました。つまり防風通聖散が未病を治療し、メタボリック症候群の発症を抑制した事になります。

以上の事は重要な新知見を示唆しています。メタボリック症候群のような連続的な疾患においても未病となる臨界点が存在すること、未病には従来知られていなかった種々の因子が関与していること、ならびに未病を治療することが出来ることの3点を明らかにした事は極めて重要です。また、未病は治療の対象となる状態で、健康ではない状態であることも明確となりました。富山大学では合原一幸先生をPMとするムーンショット目標2 「2050年までに超早期の疾患の予測・予防ができる社会」というテーマの中で「複雑臓器制御系の数理的包括理解を超早期精密医療への挑戦」という課題を解決したいと考えています。数理モデルを用いた未病の解明と未病の段階から治療するという新たな未病創薬を確立するために、全学をあげて頑張りたいと思っています。興味のある方はどうぞ見学にお越しください。

2021年4月
富山大学未病研究センター長
富山大学長 齋藤 滋